パパ 「前々回、ジャズピアノの歪み感について話したろう」
ピー 「古いアナログ録音のジャズピアノを聴くと、和音が歪むという
話だったね」
パパ 「で、ディジタル録音に変わってから、この歪み感が無くなった
ように思ったんじゃが、まだ少し変な感じがするんだ」
ピー 「変な感じ?」
パパ 「歪みじゃないと思うけど、和音が鳴ると若干歪みのような
違和感を感じる」
ピー 「何のことか分からんけど・・・」
パパ 「今まで気付かなかったけど、ピアノの音程は平均律で調律
されているから、それが影響しているんじゃないかと・・・
推論の域だけどね」
ピー 「平均律 ?」
パパ 「ピアノの音階は、オクターブ当たり12音階に等分され、
均一な音律となっている」「オクターブは、周波数比が2倍だから、
12音階での半音は2の12乗根となる」「これを平均律と言う」
ピー 「うん? おいらにはよく分からんよ」
パパ 「パパも詳しくは分からん」「この2の12乗根を解くと1.059463....
の無限小数となる」「ピアノは、これを半音毎の周波数比として
調律するんだ」
ピー 「それがジャズピアノの和音にどう影響するの?」
パパ 「人間の耳は、この周波数比が整数に近い程、最も心地よい響き
として聴こえるようにできちょるのよ」
ピー 「すると、オクターブは2倍の周波数比だから1:2の整数だね」
パパ 「そ、オクターブの和音は、全く濁り無く綺麗に聴こえる」
ピー 「ちゅーと、オクターブ内の2の12乗根の和音は、整数比になら
ないから音が悪い?」
パパ 「悪いというより響きが良くないというか、音に濁りを生じる」
ピー 「濁りとは?」
パパ 「二つの音が完全に協和せず、変な唸りを伴って聴こえたりする」
ピー 「ほう?」
パパ 「例えば、平均律での完全5度や完全4度の和音の濁りを耳で
判別するのは困難だが、長3度(ドミ)の和音の濁りは分かる」
ピー 「どう言うことかいな?」
パパ 「平均律で言うと、長3度の周波数比は約1:1.25993となる」
「しかし、人間の耳は1:1.25(整数比4:5)の響きの方が綺麗に
感じるんだなぁ」
「この綺麗に感じる周波数比の音律を純正調と言うんだ」
ピー 「う~ん、完全5度や完全4度の和音は、純正調との差が少ない
から耳に濁りを感じないということか」
「すると、綺麗に聴こうと思えば、長3度の和音を1.25993から
1.25に音程を下げないと駄目なん?」
パパ 「そう言うことになるね」
「だけど、純正調は、音律上の周波数比がまちまちになるから、
移調や転調で調を変えると、調律のやり直しが必要になる」
ピー 「ほんでピアノは、エイヤっと、等分な周波数比の音程に
整えたんだな~」「だから平均律というのかぁ」
パパ 「極端な話、ピアノは音痴なんだよ~」
「だから、平均律での和音を多用するジャズピアノを聴くと、
何かしら歪みのような、違和感のような、濁りのような、
そういうものを感じるんじゃないかと・・・」
ピー 「だけどさぁ、ライブなんかでピアノの音に違和感なんか感じない
けどね~」
パパ 「実際は、和音の濁りを生じているんだけど、ライブの雰囲気に
掻き消されるんだろうねぇ」「音律を聴いてる訳じゃー
ないからね。スウィング感を楽しむんじゃけん」
ピー 「ふ~ん??」
パパ 「オーディオの場合は、ジャズを複雑な電子回路や機械系で再生
するから、和音の濁りがより増幅されて聴こえるのかも知れない」
ピー 「う~ん、仮定と言うか、推論としては面白いけれど、果たして
実証できるのかねぇ?」
パパ 「今のところ、平均律がオーディオ系に及ぼす影響についての
文献は無い。・・で、ここから先の実証は、学者先生の領域だ」
ピー 「何かさぁ、音楽と言うのは、数学の範疇のような気がするね」
パパ 「昔々、音律を考え出したのは、古代ギリシャのピタゴラスだ」
「音律は、中国や他の国でもあるんだけど、ピタゴラス音律が
一番有名だね」
ピー 「あのピタゴラスの定理のピタゴラス~? 数学者じゃないの~?」
パパ 「そうだよん。数学者であり哲学者でもあった」
「じゃけん音楽は、中世頃まで数学課程の範疇に組み込まれていた
らしい」
ピー 「ほう~、極めて理論的なんだ」
パパ 「理系に音楽愛好家が多い理由も分かるだろうって」
「で、それが紆余曲折を経て、現在の平均律に発展したんだ」
ピー 「パパも数学好き?」
パパ 「わしゃ~、落第点じゃった。あははー」