間もなく、おっ父も根石岳のてっぺんに到着しました。
待ってたんだぞー!
さあ、いよいよ今回のトレッキングの本命『天狗岳』(2646メートル)を目指します。
かかり始めた霧の中に、雄々しくそびえる頂上が見えます。
ただし、ここからは、一人と一匹のトレッキング。
天狗岳山頂に近付くにつれて、道幅が一気に狭くなるのと、勾配も急激に大きくなるため、「気持ち悪くて登れない。」と言うおっ父には、根石岳で待機してもらうことを計画の時から決めていたから。
おっ父、待っててね~。 行って来っからね~。
おいらは、どこまでも、おっ母と行動を共にするんだ。
おっ父が待つ根石岳方向を、何度も振り返りながら登ります。
ところが・・・
目指す天狗岳にかかる霧は、ますます深くなるばかり。
しばし足を止めたものの、ルートはちゃんと捉えられるので、霧が晴れてくれることを願いながら前進します。
足元をしっかり確認しながら登り続ける途中、下山して来られた一人の登山者に出会いました。
この先、霧は、さらに深くなりそうとか。
今夜のニュースで、『天狗岳山頂付近で、ラブラドールとオバサン、滑落』なんてことが頭をよぎり始めたおっ母。
ついに、「ピート、ここまでにして、戻ろうかぁ・・」と。
ガッテン了解!!
おっ父のことがずっと気になっていたおいらは、霧の中を一気におっ父の元へと駆け出しました。
つまづいて転んでいるおっ母を放ったらかして。
(こらーっ! どこまでも、おっ母と行動を共にするんじゃなかったのかーっ?)
根石山荘の前まで戻ったけど、登りの時とは別世界。 もう何も見えません。
霧はさらに深くなり、どんどん背中を押してきます。
霧が晴れるのを待たず、雨が降らないうちに、もうひとつ下の山小屋まで下りることにしました。
リタイヤは命を守るための選択肢。
天狗岳の途中で転んだおっ母は、今頃になって打身の痛さに気付きました。
その夜、
頂上を目前にしながら、登頂を諦めたことが悔しくて、再挑戦を決めたおっ母。
そんなことどうでもよくて、心地よい疲労感の中でひたすら眠るおいら。
山は、逃げないからね~~!
おっ母、また次も付き合ってあげるよぉ。