2009年5月20日水曜日

ピートとパパの会話(その57 ソナタ形式?)


パパ 「リー・モーガンのデザート・ムーンライトはどうだった?」
ピー  「月の砂漠ね~、最初にチョチョっと月の砂漠のフレーズを
    やって、その後は訳が分からん」
パパ 「聴衆は、最初のチョチョの部分で、あぁ~'月の砂漠'か、と知る」
ピー  「それは、おいらにも分かるんだけど、その後が分からんぞえ~」
パパ 「実は、その後の分からん部分にジャズの真骨頂がある」
ピー  「そういうことを言うから、ジャズは大衆受けしないんだよ」
パパ 「アメリカの大衆には受ける」「何故受けるかは、最初の頃に
    話したよね」
ピー  「自由の表現だろ」
パパ 「おー、覚えちょるな」「以前ピートが、ジャズはソナタ形式に
    似ちょると言ったじゃん」
ピー  「あ~、それも覚えちょる」
    「リー・あんちゃんの月の砂漠は、ソナタ形式?」
パパ 「こじつければ、そういうこと」「最初のチョチョは提示部で、
    簡単にメロディラインを奏でている」
ピー  「その提示部に第一主題と第二主題があるんだね」
パパ 「ジャズでは、そんな厳格な定義はないよ」
    「原曲が何であるかを聴衆に分かって貰うために奏でるだけだ」
ピー  「ふ~ん」
パパ 「本来ソナタ形式は、第一主題と第二主題が異なる調で構成され
    ているが、ここではソナタ形式のようなものとして考えれば良い」
    「要は分かり易いように、こじつけの話をしとるんじゃからね」
ピー  「すると、その後の分からん部分が、ソナタ形式の展開部に相当
    するんだね」
パパ 「そのとおりだす」「ここからがBopの始まりだ」
    「展開部では、リーのラッパ、ジョー・ヘンダーソンのサックス、
    ロニー・マシューズのピアノへと続く」
ピー  「この部分が ’自由’の表現なんだねぇ」
パパ 「んだんだ、これが即興演奏なのかアドリブなのかは、
    この部分の 楽譜が最初の演奏時に有るか無いかだ」
ピー  「どれくらいサバ読んで演奏しているんだろうね?」
パパ 「この分からん部分は、独奏協奏曲のカデンツァに相当する」
ピー  「何よそれ?」
パパ 「クラシックにおける独奏楽器の自由な即興演奏を指す」
ピー  「ええ? クラシックでも即興演奏ってあるの?」
パパ 「古典派のベートーヴェンやロマン派の作曲家なんかも
    よく取り入れた技法だよ」
    「この部分は楽譜が無く、空白になっている場合もある」
ピー  「お任せなんだ」
    「ジャズで行う技法って、昔からあったんだね」
パパ 「但し、この即興演奏ちゅーのは、物凄く難しい」
ピー  「難しい? 適当に自分勝手な演奏をすりゃいいんじゃないの?」
パパ 「即興演奏やアドリブは、聴衆との交流で成立つ」
    「特にジャズはね」
    「やりすぎると演奏が聴衆と乖離するし、原曲のメロディを
    意識しすぎると、面白くなくなる」
ピー  「所謂ライブにおける ’ノリ’のようなものだね」
パパ 「そういうこと」
    「で、乖離しすぎたのが、フリージャズのオーネット・コールマン
    やアルバート・アイラーだ」「自分勝手で訳分からん」
ピー  「おいらは、もっとわーらん」
パパ 「リー・モーガンが、この空白部分をメンバーとどれ位打ち合わせ
    したのかが知りたいなぁ」「いきなり即興に入ったなら、
    凄いぜぃ」
ピー  「そういうことが分かってくると、ジャズも面白く聴けるなぁ」
パパ 「そうだろ~。この月の砂漠では、三人が独奏パートを受持つけれど、
    独奏のバックで通奏低音が響いている」
    「これは、バロックの技法で、和音を伴った伴奏だ」
ピー  「昔の色々な技法を取り入れているんだね」
パパ 「たまたまそうなったと考える方が自然だ」
    「ジャズの発祥から考えて、そんな高級な楽典が最初からあった
    とは考えにくい」
ピー  「な~るほど」
パパ 「で、この通奏低音が奏でる和音が、独奏楽器の演奏を引き立た
    せているんだ」
ピー  「よくわからん」
パパ 「通奏低音は、ピアノを始めとして、和音を奏でられる楽器が受持つ」
ピー  「ジャズでいうコードだね」
    「ちゅーことは、通奏低音を受持つピアノも、リー・モーガンの
    即興演奏に追従して、即興を求められるということかいな」
パパ 「Yes. ピアノだけじゃなく、ベースとかもね」
    「そこにドラムが一定のリズムを刻んでアンサンブルを構成する」
    「すると、楽曲の高級感が醸し出されるという寸法だ」
ピー  「ん? 通奏低音を奏でるのは、ピアノだと言ったよね?」
    「じゃ、ピアノが独奏楽器となる場合は?」
パパ 「ヘヘ、その場合は、左手がその代わりをする」
ピー  「そうか、ピアノは両手で弾くから便利だね~」
パパ 「それじゃもう一度、独奏楽器のバックの伴奏をよく聴いてみよう」

ピー 「なーるほど。そして、再現部に入るんだね」
パパ 「ここで、提示部のメロディが再び演奏される」
ピー  「聴衆は、この再現部で、この曲が'月の砂漠'だったことを
    思い出すんだー」
パパ 「そう。本来のソナタ形式は、再現部で第一・第二主題の調を
    統一する」
ピー  「再現部が無いと尻切れトンボだね」
パパ 「数学でいう発散だ。状況が収束しないんだ」
ピー  「どこで楽曲を終えればいいか、分からなくなるね」
パパ 「ソナタ形式では、再現部が最も重要だと思うよ」
ピー  「と言うことはさ、この形式をとれば、どんな曲でもジャズ化
    できるね」
パパ 「ジャズって、面白いだろう~」
    「で、展開部で自分の想う曲風で演奏すれば楽しくなる」
ピー  「ほうほう、楽譜に支配されないところが良いね」
    「正に自由だ」
パパ 「おー、ピートも分かってきたねぇ」
ピー  「しかしまあ、こじつけにしろ、色んなことをよく考えるね」
    「大抵の人は、レコードやCDのライナーノート(解説)に書いて
    あることをそのまま言っているだけで、自分の意見が無いね」
パパ 「自分で聴いて自分で考察することが面白いんだなー」
    「それに、ライナーノートの下手な文学的表現は、どうもねぇ・・・」
パパ 「次回は、ジャズピアノについて語ろう」
    「ピアノにおけるオーディオの問題点なんかも含めてね」
ピー  「楽しそうだね」