2008年9月12日金曜日

ピートとパパの会話(その16 Classic編)


ピー 「今日は、珍しくクラシックの話題だね」
パパ 「そう、ヴァイオリニスト前橋汀子の考察だもんね」
   「彼女がレニングラード音楽院へ留学したのが
    1960年だと思ったな」
ピー 「レニングラードってどこ?」
パパ 「現在のサンクトペテルブルグだよ。ソビエト時代は、
    レニングラードと呼んだ」
   「帝政ロシア時代の首都だよ」「女帝エカテリーナとか
    知らないかなぁ」「彼女が徹底的にロシアの欧州化を
    進めたんだ」
ピー 「昔、学校で習った憶えが・・・おいらにはないか」
   「でも、ソビエトとかロシアとかいうと、野暮ったい感じが
    するなー」
パパ 「そうね、ロシアはヨーロッパの田舎だと言う人もいるが、
    それはモスクワを中心に考えるからだよ」
   「古都サンクトペテルブルグにはね、世界3大美術館の一つ、
    エルミタージュ美術館もあり、純然たるヨーロッパ文化圏の
    一員だよ」
   「もう一つ、学者連は、汎スラブ主義を根底に据えてロシア
    を考えるから、どうしてもロシアとヨーロッパを区別
    したがる」
   「ロシアは、イデオロギー的には汎スラブ主義でも、芸術的
    にはヨーロッパって、分かるかな?」
ピー 「なるほどね、チャイコフスキーの研ぎ澄まされた音楽を
    聴くと、ヨーロッパだと納得できるよ」
   「ロシアの問題は、世界を悩ます拡張主義にあるんだよね」
パパ 「理解してくれてありがとう。次へ進もう」
   「むか~し、前橋汀子がベートーヴェンのスプリング・ソナタを
    やるというので聴きに行ったんだ」
ピー 「レニングラードへ留学していたのに、ドイツ古典派?」
パパ 「おっ! ピーも鋭いじゃん」
ピー 「そらもう、歴史の前提考察から察しがつくよ」
パパ 「ほんで聴いていてさ、もうがっかりだったよ。譜面の音符を拾い
    ながら演奏するんだもん」
   「気持ちが譜面にいってるから、演奏もそれなりなんだよね」
ピー 「そりゃ困ったね。損したじゃん」
パパ 「ところがさ、ドヴォルザークのスラブ舞曲第2番になったとたん、
    素晴らしい演奏に変わった」
   「憂愁味漂うエキゾチックな旋律を、情感を込めて見事に
    表現していた」「これはもう、魂で聴く演奏だ」
ピー 「汀子はんの留学経験が、スラブ舞曲第二番の演奏表現に現れた?」
パパ 「そういう解釈を、パパはしている」
   「前橋汀子のスラブ的な感情表現は、日本ではとても体得できない
    だろうな」「これは、レニングラード音楽院時代に養ったと
    考えているんだ」
   「とにかくスラブ民族と、安アパートで一緒に生活していたん
    だから」
ピー 「ドヴォルザークは、チェコ国民学派だけれど、汎スラブ主義の
    影響下にあったんだろ」
パパ 「おや、ノッてきたねぇ~」
   「汎スラブ主義には、色々な傾向があるんだけれど、
    ドヴォルザークはロシアの影響を受けていた。と、パパは認識
    しているんだ」
ピー 「チャイコフスキーの '懐かしい土地の思い出' にある第3曲
     'メロディ' なんかも素晴らしい演奏だね」
パパ 「魂がこもったはりますな」
   「チャイコフスキーとかのスラブ・ボヘミア系、ジプシー系、
    ラテン系の音楽表現は、前橋汀子の十八番だと思うよ」
   「それと、フィンランドのシベリウスなんかもいい。ここもロシア
    の影響下にある」
   「ブルッフのヴァイオリン協奏曲第一番でも、いい演奏を
    していたな。 これはドイツ・ロマン派だ」
ピー 「すると、古典が苦手なのかな」
パパ 「否、それは聴き手側の解釈によって好き嫌いが分かれると
    理解すべきだろうね」
    「特に汀子はんくらいの奏者になるとね」
    「譜面を見ながらちゅーのは、また別だけど・・・」
ピー 「以前、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータで
    賞を貰わなかった?」
パパ 「1989年のレコード・アカデミー賞だろ」
   「えへへ、この演奏は聴かずにとってある」
ピー 「またどうして?」
パパ 「バロックだろ、これを前橋汀子がどのように奏でているのか、
    先の楽しみにしているんだ」
ピー 「はは~ん、国民学派との演奏比較を狙っているな」
パパ 「その後、前橋汀子は、面白いことに米国のジュリアード音楽院で、
    更なる研鑽を積むことになる」
ピー 「ソ連から米国へ。 両極の体制を経験するんだね」
パパ 「面白いだろう。前橋汀子は、ソ連時代について、その生活の
    大変さを色々語っていたな。体調不良で一度帰国するんだけど、
    その辺の話は別の機会にしようぜ」
パパ 「次回は、音楽教育について考察するか」
ピー 「日本と欧米の違いなんか面白そうだね」