2008年9月8日月曜日

ピートとパパの会話(JAZZ編その14)


ピー 「日米の物作りの違いってなんなのさ」
パパ 「歴史的背景を考察しないと解釈が難しいね」
    「先ず歴史、そして、オーディオを例に考えて行こうよ」
ピー 「オーディオなんちゅーのは、何処の国で作っても
    出てくる音は同じなんだろう」
パパ 「ちゃう、お国柄ちゅーもんがあるんだわさ」
    「日本は、1868年の王政復古以降、欧米に追いつけの
    国策の基、早急に近代国家としての体裁を整える必要
    があった」「その為、憲法から科学技術に至るまで、
    手っ取り早く欧米の'真似'をしてきたんだ」
ピー 「近代国家の基となるのは、憲法だわね」
パパ 「そうざんす。伊藤博文が、憲法草案の調査でプロイセン
    (現ドイツ地方)へ行った時、その国のおっさんから
    '憲法を持つには、それに相応しい国家でなければ
    ならない' と 野蛮国扱いされましたんやで」
ピー 「ひどいね」
パパ 「ここで伊藤はん、'何をぬかみそほうれん草、日本は、
    まだプロイセンのプの字も無かった頃、既に中央集権の
    律令国家だったやい'、と一発かましたかどうか知らんが」
ピー 「以来、必死のパッチで欧米の真似をしたおした?」
パパ 「そらもう箱物作りの根本は、ここから始まったと言える」
ピー 「鹿鳴館なんざ、その象徴だすな」
パパ 「以上が、今回の考察を行う上での歴史的前提だ」
ピー 「オーディオを語るのに、憲法草案の話まで必要なの~」
パパ 「話を進めよう。オーディオ装置に必要な物の中に、
    音響トランスがある」
ピー 「その部品が、日米比較に関係するの?」
パパ 「一番顕著な例だね」
    「日本は、明治以降一生懸命に欧米の真似をしたよね」
ピー 「ふむふむ、そのようだね」
パパ 「で、現代の話なんだけど」
    「日本のある音響メーカーが、米国の音響トランスと
    同等のものを作ろうとした」
    「色々研究を重ねた結果、米国のものより遥かに素晴らしい
    物理特性の音響トランスが出来上がったんだ」
    「で、それを聴いてみたんだよ」
ピー 「結果は?」
パパ 「物理特性が良くない米国製の方が、良い音がした」
    「日本製は、優等生的音質でメリハリがなく、聴いていて
    面白くないんだね。正に音のみを聴いている感じだ」
    「米国製は、物理特性は良くないものの、非常に音楽的な
    音として聴こえるんだな」
    「日本製は、米国製に比べ約6倍も物理特性が良いにも
    関らず、駄目なんだよね~」
ピー 「一体どういうことなのか理解でけましぇーん」
パパ 「日本の技術者は、西洋音楽をよく聴かず、
    また、理解することもなく、物理特性のみを追及した」
    「我が技術者は、物理特性さえ良ければ、音も素晴らしい
    筈だと思い込んだんだよ」「つまり、箱物志向だ」
ピー 「考え方というか、文化に対する根本姿勢が異なる
    気がするね。物作りの背景にある文化を理解しなかった」
パパ 「地方の役所が、コンサートホールは作っても、
    そこで演奏する日本人の演奏家を育てないのと同じさ」
    「ま、日本人にとって、それは仕方のないことだね。
    明治以降の追いつけ思想に、今も支配されているんだから」
ピー 「だからパパは、歴史的考察から始めたのか」
パパ 「音響に携わる技術者には、音楽的教養も必要だと思うよ」
    「米国には、音楽を如何に聴かすかという技術志向があり、
    それがノウハウとして音響トランスにも生かされている」
    「秋葉原の老舗音響屋の社長が、'今の技術者は本物の音楽を
     知らない、NHKの技術者でもそうだ’と嘆いていたよ」
    「文化を理解するか、技術志向のみで行くか、それが問題だ」
ピー 「シェークスピアじゃんか」
パパ 「先ほどの音響トランスは、何処かに日本人の知らない
    細工がしてあるんだ」
ピー 「細工とは?」
パパ 「トランスのコア材質・線材・捲き方等のノウハウだよ」
    「それが音楽性能として出てくるんだな」
ピー 「技術とその文化的背景かぁ。でも、技術志向のみが、
    今の日本の原動力になったんじゃないの」
パパ 「民生品の自動車や電子機器のように、プロダクトライン
    で流すような物作りは得意だね。世界最高品質を誇る」
    「だけど、物作りに西洋の文化・芸術を取り入れると
    なるとねぇ・・・・」
    「ウィーンのシュターツオーパーやミラノのスカラ座を見ると、
    サントリーホールなんかベニヤ張りの芝居小屋という
    感じがするね」「これも箱真似だ」
ピー 「日本古来の建築や古典芸能は、世界に冠たる芸術だと
    思うけど、国内ではどうして評価しないのかな」
パパ 「これも明治維新の欧米列強に追いつけ思想からきていると
    思うよ」「文化の灯台下暗しだ」
    「浄瑠璃の太棹が奏でる'死の音階'なんか、素晴らしいと
    思うけどね~」「これは、西洋に無い音階だ」
ピー 「そういえば、時々小唄や端唄、浪曲を聴いてるね」
パパ 「日本の町人文化じゃけんね。小唄なんか粋なものだよ」
    「そうだ前回、スタインウェイの調律について話したよね」
ピー 「中高音の3本弦だろう」
パパ 「日本人の調律師は、3本とも見事に音程を合わすんだ」
ピー 「流石日本人だね」
パパ 「ところがさ、音の響き具合が悪いんだなぁ」
    「スタインウェイが普通のピアノになる」
ピー 「それ、どう言うことなのさ」
パパ 「本場の調律師は、弦3本の音程をほんの少しずらすことで、
    音に奥行き感を出すんだ」
    「これは、大変なノウハウなんだよ」「日本でこの調律が
    できる人は、ヤマハに一人いるだけだ」
    「欧州で10年修行したんだって。NHKでも放送していたな」
    「著名な外国人ピアニストは、日本での演奏に際し、この人を
    指名してくるんだよ」
ピー 「ピアノだけを作っても駄目ということか」
パパ 「そ、日本の製造技術は世界最高水準なんだけど。惜しいね~」
    「やはり、西洋のものは西洋で修行しないと、物の奥に
    隠されている文化の真髄を体得することができないんだなぁ」
ピー 「突然だけどね、ジャズが世界的音楽にまで発展したのは、
    何故なんだろうね。不思議な感じがする」
パパ 「次回はそれだな」