ピー 「パパの完全無農薬実験農場の話を聞かせてよ」
パパ 「実験農場じゃなく、実験トロ箱だ」
「家の南側にトロ箱を数個準備して、野菜や米を
栽培したんだ」「所謂家庭菜園の部類さ」
「それを無農薬で行っただけだよ」
ピー 「ドラエモンに出てくる趣味の日曜農業セットかぁ」
パパ 「トマト・キュウリ・ナス・里芋・等々、それに米」
「米作は、トロ箱に水をはって田圃に見立てたんだ」
「田植えもしたよ、はは」
ピー 「またどうして無農薬栽培を始めたのさ」
パパ 「素人が出来るかどうか実験しただけだ」
「問題は、自前の有機肥料作成と病虫害対策だね」
「有機肥料は、里山の落葉から作った堆肥だ」
ピー 「ホームセンターで菜園用の土や肥料を売っているのに~」
パパ 「堆肥作りから収穫まで、全て自分でやるのが面白い」
「それに、土壌の変化にも興味があった」
「色々細かいことがあるんだけど、結果だけを言うと、
一回目の収穫が一番良かった」「こんなに採って
いいのかと思うくらい収穫できたね」
ピー 「二年目からは、何か問題でも?」
パパ 「小さな箱で栽培していると、地力が直ぐ落ちるんだ」
「毎年堆肥を施すんだけど、何故か収量が下るし、
病虫害も出やすくなった」
「作付け地を換え、連作障害に注意していても難しい」
ピー 「原因不明?」
パパ 「毎年同じようにしているつもりでも、何かが異なるん
だろうね。チッソ・リン酸・カリの配分とかね」
「最初の年は、土の中にシマミミズがいた」
「地力が落ちるに従い、普通のミミズに取って代わり、
数も少なくなっていったね」
ピー 「ほう、面白いね。土壌の変化が、生物の変化に繋がる
のかぁ」
パパ 「それと、一年目は病虫害の発生が殆ど無かったね」
「これも地力と肥料配分に関係がありそうだ」
「収量を欲張って多肥料にすると、逆に収量と品質が
落ちてくる」
「特にチッソ肥料の量が難しい。これは虫害に関係してくる」
ピー 「は~ん、単位面積当たりの施肥量を増やしても、収穫量は
増えないのか。これは、収穫逓減の法則でないかい」
「何かノウハウがありそうだな? ミミズも関係するのかな」
パパ 「オッ、経済学を知っちょるな」
「収穫逓減の法則は、投下労働力と収穫の関係を説明するの
だけど、これを生産要素の変化だと考えると、一回目の
収穫以降は限界生産力の問題かも知れないね」
ピー 「ちょっと、それって偏微分方程式で解くんじゃないのん」
「趣味の箱庭農業を、経済理論で説明するのやめてよ」
パパ 「結局、肥料の投入量は、経験によるノウハウからその分量を
決めるしかないね。それによって、収量と病虫害の発生
度合いが違ってくる」
「でもね、完全無農薬の有機栽培ってのは、面白いよ~」
「自然の営みが分かってくる」
ピー 「例えば?」
パパ 「害虫の発生を抑えるため、菜園にカマキリを放すんだ」
「で、冬の里山へカマキリのタマゴを見つけに行くわけよ」
「すると、カマキリのたまごは、どういう環境下に産み付け
られているかが分かる」「大抵、南側の日当たりの良い
場所で、ススキの枯枝なんかがある所ね」
ピー 「昆虫採集の学習だ。小学生がいると喜ぶね」
パパ 「ところが、タマゴを捕って帰って菜園に枝ごと刺しておくと、
孵化時に蟻がその下で待ち構えているんだな」
「それはもう、大量に生まれてくるからね」
ピー 「自然の食物連鎖だ」
パパ 「しかし、そのうち何匹かが生き残るわけだけど、
季節が終わってみれば、毎年必ず一匹だけになっている」
「食物の縄張りがあるんだろうね。他は移動して行くようだ」
「そういう自然のことが、だんだん分かってくる」
ピー 「そのうち精霊が出てくるんじゃないの」
パパ 「そう、精霊とか穀物神とかの信仰が生まれる雰囲気が
分かるような気がするね」
ピー 「文明の起源だ」
パパ 「そこで、自然農法をちょっとかじってみると面白い」
ピー 「自然農法は嫌いじゃないの」
パパ 「変にイデオロギーと結び付けるところが嫌なだけで、
技術的には興味深い。天敵の利用とかね」
「小さな菜園でも、カマキリ、てんとう虫、トンボ、
小鳥もやって来る。勿論害虫もね」
ピー 「人生の楽園じゃない」
パパ 「自然との闘いじゃ。虫のために作っているようなもの
じゃった」「特に、夜盗虫には参ったね」
ピー 「夜、こっそり野菜を食いにくる奴だろう」
パパ 「懐中電灯で見つけるんだけど、まぁー、手間だよ」
「市販の野菜類は、そらもう殺虫剤たっぷりだー!・・・
ということも、体験的に分かってくる。恐ろしい~ぞ~」
ピー 「聞いているだけで、オエが出そうになる」
「米はどうしたのさ?」
パパ 「病虫害もなく、何とか収穫できたね」
「脱穀は、千歯こきが無いから手でしごいた」
「精米は、一升瓶に米を入れ、それを棒でつつくんだ。
二時間ほどで七分つきになる」
ピー 「上の写真のやり方だね」「それで食べたの」
パパ 「食べたけど、美味しくなかったね」
「プロが作った米は、同じ品種でもやはり美味い」
「実験品種は、日本晴れを使った。足の短い腰の強いやつね。
背丈が低いから風に強いんだ」
ピー 「で、無農薬栽培をやってみてどうだった?」
パパ 「結局、農薬を使わないと駄目だね。野菜なんて、種類に
よっては全滅するよ」
ピー 「タデ食う虫もいるしね」
パパ 「農薬を使わずに、その辺をうまくコントロールしていくのが
自然農法だと思うけど、過去の農薬使用で、益虫とかの
営みもぶった切ったからね~」
「ま、自然への原状回復が大変だわさ」
ピー 「総括すると、農薬使用は、害虫をやっつけて収量を上げて
いるのではなく、労働時間の削減でしかないということか」
パパ 「そう、投下労働力に対する単位時間当たりの収量が増加
しているだけで、総量は変わらん。農業も経済で説明がつく」
ピー 「兼業農家でもやっていけるのは、農薬の効用によるのかな」
パパ 「そうだよ、農薬を使う前は、田圃や畑に一日中人が働いていた」
「今は見かけないよね」 「時間的余裕が出来たから、働きに
出られるようになったんだ」
「日本の農家は、それで豊かになってきた」
ピー 「一概に農薬批判は出来ないね~。それと、田畑に人が居ないから
山間部の猿害が増えてきたのかな」
パパ 「それも一因だろうね。自分でやると色々なことが見えてくるよ」